賃料未納と鍵の取り外し(強制退去)
ご相談内容
アパートの家賃45000円(月額)が支払われずに未納総額540000円になりました。
退去に1週間の期限を設定した契約解除通告をしたが、期限までに退去しないため鍵を取り替え居住できないようにしました。
これは不法行為に該当するのでしょうか
論点の整理
- 不法行為とは
- 賃料未納の効果とは
- 契約解除通告の効果とは
- 鍵の取り替えの正当性は
- 鍵の取り替えは不法行為になるのか
考え方
- 1.不法行為とは
- まず、不法行為の意義を確認します(民法709条)。
不法行為とは、「不法に他人の権利もしくは利益を侵害し、よって損害を被らせること」をいい、この場合不法な侵害原因を支配していた者(当該ケースの場合賃貸人)が被害者(賃借人)に対してその被った損害を賠償すべき負担が発生する制度をいいます。
不法行為の成立要件は、
- 故意又は過失の行為があること。
- 他人の権利を侵害すること。
- 加害者(賃貸人)に責任能力があること。
- 加害行為(鍵の取り替え)によって損害が発生すること。
当該ケースの場合、特に問題となるのは「2 他人の権利を侵害すること」であります。
他人の権利とは、賃借人が有する権利であり、これを侵害しているか否かが問題になります。
- 2.賃料未納の効果とは
- まず、いわゆる居住権が、賃借人にあるかどうかが論点となります。
これは「居住権を主張できるか」にあるように賃借人にその義務が履行されているかどうかで居住権の成否が決まります。
履行されていれば、居住権はあり、不履行なら居住権は主張できないといえます。
当該ケースの場合、賃借人の義務である賃料の支払いが不履行になっており、これにより居住権の主張はできないといえます。
- 3.契約解除通告の効果とは
- 「契約の解除」とは契約の一方の当事者の意思表示によって、すでに有効に成立した契約の効果を解消させて、その契約が初めから存在しなかったのと同じ法律効果を生じさせる事をいいます。
解除をする権利(「解除権)は相手方の債務不履行(当該ケースの場合、賃料未払い)を理由として成立します。
但し、この場合原則として相当の期間を定めて履行を催告しなければ解除できない(民法541条)と規定されています。
当該ケースの場合、約1年間の賃料未払いがあり、その間、適宜解除通告がなされているとすれば解除権が履行できます。
- 4.鍵の取り替えの正当性は
- ここまでの法律の構成からでてくる結果は、賃料未納による債務不履行に対し、契約解除は合法であるとなります。
次はこの解除に対し賃借人が退去しない即ち解除に応じない事に対する実現方法が問題になります。
この点については民法414条に「債権を強制的に実現できる方法」が規定されており、これによると強制履行は裁判所に請求することとなっています。ということはそれ以外の方法は、認められない事を意味します。
賃借人の退去を強制的に行うために鍵の取り替えをし、建物内に入居させないということは414条に反する行為となります。
このように裁判所の判決によらずに私人が債務を強制的に行うことを「自力執行「といいますが、これは原則禁止となっています(自力執行の禁止)。
- 5.鍵の取り替えは不法行為になるのか
- 以上により、鍵の取り替えによる退去の強制、即ち契約解除は民法414条により不法となります。
言い換えると賃借人が有する「私人(賃貸人)による強制履行はできない権利(414条)」を侵害され、不法行為が成立します(709条)。
不法行為となると「1 不法行為とは」に記述したように損害賠償が発生する可能性があります。
しかし、解除権は発生していますから、他に係争事項がなければ裁判では勝訴が期待できます。
なお、事情はご相談内容と異なりますが、鍵の取り替えで損害賠償請求が発生した判例として「賃貸人が鍵を取替えて賃借人を締め出す行為は不法行為にあたるとして損害賠償請求を認めた事例」 があります 。
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不動産個人取引支援のミドルプラス 最新更新2011/10/5 |
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