平成24年3月3日
「ソニー」
この言葉に私を含む50代以上の男性は特別の思いがあるのではないでしょうか。
それはかって「ソニー神話」という言葉があったように、
他社のメーカーにはないソニー製品に対する性能の優秀さ、信頼を持ったものです。
トランジスターが世にでてからトリニトロン、ウォークマン等の商品が販売されるまで
ズーッと続きました。
当時、他社の商品が3割引きであり、ソニーは精々5%引き程度であってもソニー商品を買いました。
ところがそれも月日が経つと、その神話が崩れ始め、2003年には「ソニーショック」がおきました。
それまで黒字であったエレクトロニクス事業が突然巨額の赤字と発表されました。
このため、発表直後2日間のソニーの株価はストップ安を記録し、更にこの影響はソニー株に留まらずに
電機業界に及び、更に日経平均株価までがバブル崩壊後の最安値を記録しました。
当時のビッグニュースでした。
その後、あの技術力に輝く会社が今では他のメーカーと何ら変わらない会社になってしまいました。
これについて最近「さよなら!僕らのソニー(立石泰則著、文春親書 \830)」という本を読みました。
そこでなぜそうなったのかを初めて知りました。
一つには、トップ即ち社長、今の呼称ではCEOの志向・考え方に依存するところ大ということでした。
ソニーが創立された頃は、井深大、盛田昭夫氏の精神
「いたずらに規模の大を追わず、不当なる儲け主義を廃し、真面目なる技術者の技能を最高度に発揮し、自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」があり、
その創業グループの岩間和夫、大賀典雄氏までは引き継がれたようですが、
創業時代を知らない出井伸之、ハワード・ストリンガー氏にはその考えはなかったようです。
出井、ストリンガー氏は、商品の差別化よりもコスト競争を重視し、数字で成果を示そうとしたようです。
ところがコスト競争は安売り競争につながり、結果は現在の姿になっているわけです。
コストダウン重視の考え方というのは我々の身近でも経験しています。
コストダウンで競争しても会社の利益としては限界があるということなのでしょうか。
原因の二つ目は、このトップの人選にあるようです。
会社内及び世間ではあの人が後任のCEOと評価されていた人がならず、選任者(CEO)の都合で決められた事です。
下馬評の人は選任者に対して批評的な態度であったため、選任者は気に入らず、退任後に自分の権力がなくなることを恐れ
自分に好意的な人を人選し、自分の影響を残すようにしました。
これも私達の身の回りによくある光景であり、私の在職中も選任者の好みで人選されたと記憶しています。
技術に対して挑戦的な人がCEOにならなかった事は更なる影響があったようです。
その一つはかってソニーではappleのipadに似た商品化の構想があったそうですが、
残念ながら日の目を見ませんでした。
更に技術軽視の影響は大きく、優秀な人が他社、それも韓国のサムスン、LGにヘッドハンティングされ、製造部門でも台湾の鴻海精密工業に人が流れました。
ソニーでは、先端的開発をしていた部署をなくしました。そのためその部署に属する人の関心は外部に向かい、他社に転職するのは当然の成り行きです。
もし、技術重視の姿勢が続いていたら、ヒョッとしたらソニーからipadに似ていた商品が出ていたかも知れません。
更に現在のようにサムスン、LGが薄型TVの世界一,二位を占めるということもなかったかも知れません。
鴻海精密工業は今のようなTV等の製造委託の大企業にならなかったかも知れません。
これと反対に、日本では各社がTV生産からの事業縮小又は撤退がおきました。
そして2012年3月期の決算でソニーのみならず家電メーカが軒並み大きな赤字に転落するような事態になりました。
ソニーのような大企業の動向は、自社グループのみならず、業界更に日本経済まで大きな影響を与えます。
人間が後任を選ぶのに好き嫌いで選ぶ事は、ある程度やむを得ないところもあるでしょう。
しかし、製造会社の経営者が売上重視、利益重視の姿勢で、
技術開発は経費がかかり当面利益にならないことを理由に犠牲にするという考えは
いずれ成長が止まることを意味しているのでしょうか。
このソニーの変遷は、教わるところ大といえます。
なお、先の本によると外部取締役を含む経営陣はウォール街出身者など技術でなく利益を優先する人々が多数であるため
かってのようなソニーの再来はないだろうとの事でした。
ソニーの話のついでにもう一つ他社について
新聞のネタから、今度はコニカミノルタホールディングスについて。
コニカといえばご存知のように富士フイルムと写真のフィルム(銀塩フィルム)業界を二分していたフィルムメーカです。
ところが現在、多くの人はデジタルカメラ又は携帯での写真撮影のためフィルムを使う人は激減しています。
当然メーカとしては、死活にかかわる重大事態。
案の定、同じフィルムの世界的トップメーカであるコダックは経営破綻しました。
これに対しコニカは今期増益といわれています。
その理由は韓国向け液晶保護フィルムなどの独自製品といわれています。
かってのフィルム技術を生かして新たな転用を研究開発したお陰です。
こう見ると技術は大切。
ソニーも技術を生かしてオリンパスと連携した医療への分野が開ければいいのだが…。
もう少し経てば暖かい春がきます。
それでは又。